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2020/03/28

遺言書と異なる内容で遺産分割協議はできるのか?(その2)

おはようございます!

今回は前回記事の続きを書いていこうと思います!

前回のお話では、
時の経過とともに
残す人(遺言者)の事情と
残される人との関係が変化すること。

それに伴い
作成された遺言書の内容は
相続が発生した「いま」の実情と
ズレが生じてしまうこともしばしばあるということ。

そういったことについてご説明させていただきました。

今回は、
遺言書が出てきたけれども、
当時の状況から「いま」の実情が大きく変わっているので
相続人同士で話し合って、遺言書の内容と異なる内容で遺産を分け合いたい。
いわゆる「遺言と異なる遺産分割」をしたい場合の
「法律上の取扱い」について、お話したいと思います。


【そもそも、「遺言と異なる遺産分割」は可能なのか?】

結論から言いますと
「遺言と異なる遺産分割」は可能です。

ただし、「遺言と異なる遺産分割」を有効に成立させるには
いくつかの条件があります。
この条件を満たさなければ、
「遺言と異なる遺産分割」は無効になってしまいますので、
注意が必要です。


【「遺言と異なる遺産分割」を有効にするための条件とは?】

「遺言と異なる遺産分割」を有効にするための条件は、
以下のとおりです。

1、遺言者が遺言と異なる遺産分割協議を禁じていないこと
2、相続人全員が遺言の内容を知っていること
3、相続人全員が遺言と異なる遺産分割を行うことに同意していること
4、相続人以外の受遺者がいる場合は、受遺者も同意していること
5、遺言執行者がいる場合は、遺言執行者も同意していること

この後、それぞれの条件について詳しく解説していきます。


【1、遺言者が遺言と異なる遺産分割協議を禁じていないこと】

遺言というのは
遺言者の最後の意思表示であって、
最大限尊重されるべきものとされています。

遺言者の生前は
その人の財産をその人の意思で自由に処分できるのですから
その人自身が亡くなった場合に備えて書いた遺言書も
まぎれもなくその人の意思表示です。
そうすると遺言書の内容が尊重されるべきだというのは
自然な考え方ですよね。

そのため、
遺言書がある場合、
原則的には、その通りに遺産を分けることになります。

民法907条1項においては
“共同相続人は、
次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、
いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。”
と定められています。

例外的に「遺言と異なる遺産分割」をしようとする場合であっても、
遺言書においてこれを禁止する記載があったり、
遺言書の趣旨がこれを禁止するものであれば、
遺言者の意思が尊重され、「遺言と異なる遺産分割」はできません。


【2、相続人全員が遺言の内容を知っていること】

「遺言と異なる遺産分割」を行うのですから
相続人全員が遺言の内容を知っている。
というのは前提として必要になってきます。

ちなみに、
相続人の一部が遺言の内容を知らないままに、
「遺言と異なる遺産分割」をしてしまうケースとしては
以下のようなものがあります。

①「一部の相続人が、意図的に遺言書を破棄、隠匿していたケース」
②「遺産分割協議をした後に、遺言書が出てきたケース」

①の「一部の相続人が、意図的に遺言書を破棄、隠匿していたケース」では
当該相続人は、相続欠格、つまり相続人の資格を失うことになります。

そうすると、
相続人の資格のない人が参加してなされた遺産分割は無効となるため
本来どおり
「遺言書どおりに遺産を取得する」か、
あらためて
相続欠格者を除いて、「遺言と異なる遺産分割」を行うことになります。

②の「遺産分割協議をした後に、遺言書が出てきたケース」では
遺言書の内容に比べて
遺産分割の内容が、有利になる相続人と不利になる相続人とが出てきます。

遺言書の内容を知っていたのであれば、そのような遺産分割をしなかった。
遺産分割の結果、不利になる程度が大きすぎる。
そういった場合には、遺産分割協議の錯誤無効が認められる場合があり、
錯誤無効となった場合は
本来どおり
「遺言書どおりに遺産を取得する」か、
あらためて
「遺言と異なる遺産分割」を行うことになります。


【3、相続人全員が遺言と異なる遺産分割を行うことに同意していること】

「遺言と異なる遺産分割」をするためには
相続人全員がこれに同意することが必要です。

遺産分割は相続人全員が合意してするものですから、
反対する人がいれば、
「遺言と異なる遺産分割」ができないのは当然といえるでしょう。


【4、相続人以外の受遺者がいる場合は、受遺者も同意していること】

受遺者というのは
遺言書によって遺産を受け取る旨指定されている人のことをいいます。
具体的には、
「遺言者は内縁の妻であるAさんに“あの不動産”を遺贈する。」
というふうに定められた「特定」遺贈の受遺者と、
「遺言者は内縁の妻であるAさんに“すべての遺産”を遺贈する。」
というふうに定められた「包括」遺贈の受遺者とがあります。

遺言と異なる遺産分割をしたいのであれば、
遺言で遺産を受け取る旨指定されている
この受遺者の同意が必要なことも当然といえるでしょう。

なお、
この場合の受遺者の同意というのは
「遺言に基づく遺産を受け取る権利を放棄する。」
という効果を持つことになります。

受遺者が遺産を受け取る権利を放棄すると
遺産は、遺言者の死亡時にさかのぼって、相続人のものとなるので
遺言と異なる遺産分割をすることが可能になります。

ここで1点注意事項をお伝えします。
先ほどご説明した「包括遺贈」の受遺者がいる場合です。

包括遺贈の権利放棄は
相続放棄と同様に、原則、遺言者の死後3ケ月以内に、
家庭裁判所へ申立てを行って放棄をする必要がありますので、
期限を過ぎてしまわないように注意が必要です。

一方、
「特定遺贈」の権利放棄は
「いつでも」、「口頭でも」行うことが認められています。
そのため、家庭裁判所への申立ても不要です。

ただし、後日のトラブルを防ぐために、
特定遺贈の権利放棄についても、
書面の作成はしておいた方が良いでしょう。


【5、遺言執行者がいる場合は、遺言執行者も同意していること】

民法1012条1項において
 “遺言執行者は、
遺言の内容を実現するため、
相続財産の管理その他遺言の執行に
必要な一切の行為をする権利義務を有する。”

また、
民法1013条1項においては
 “遺言執行者がある場合には、
相続人は、
相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為を
することができない。”

民法1013条2項においては
 “前項の規定に違反してした行為は無効とする。
ただし、これをもって善意の第三者に対応することができない。”

と定められています。

つまり、
遺言執行者は
遺言の内容を実現することを
その任務として遺言者に任されているのであって、
そのために必要となる一切の権限も与えられている。

そして、
相続人は、遺言執行者がいる場合には
勝手に遺産を処分したり
遺言の執行を妨害するような行為をできないし、
そのような行為は無効ですよ。
とされているのです。

そして、
遺言の内容と異なる遺産分割をするということは
法律上、相続人がすることができないとされている
「相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為」
に該当してしまうので、
遺言の内容と異なる遺産分割をしたいのであれば
後日、無効であると言われないためにも
遺言執行者の同意を得る必要があると考えられています。


余談ですが、
この遺言執行者、
必ずしも同意してくれるとは限りません。

遺言者から
遺言の内容を実現するように依頼を受けたにもかかわらず
遺言の内容を実現せずに
別内容の遺産分割を成立させることに同意するということは

ある意味、
遺言執行者としての責任を果たしていないことになるからです。

相続人や受遺者の全員が同意をしている場合においては
遺言と異なる遺産分割へ同意することについて
遺言執行者に対して責任追及を行う関係者が想定できず
一般的には免責されるという考え方もありますが、
免責されるから同意をするといった簡単なものではなく、
亡くなっている遺言者の想いにも十分配慮をしたうえで
遺言執行者は同意をすべきものと考えられます。

相続人の方々から
遺言と異なる遺産分割をしたいとの申し出を受けた場合、

“残された人たちが揉めることなく平等に遺産を分けて欲しい。”
といったような
遺言者が遺言を作成したときの想いなども踏まえても
遺言者の意思が尊重されている遺産分割内容であれば、
遺言執行者として同意をしやすいでしょうけれども

遺言者の意思をほとんど無視しているにもかかわらず、
声の大きな1人の相続人に圧倒される形で
他の相続人も同意しているに過ぎないような
遺産分割内容であるような場合では、
遺言執行者としては
遺言と異なる遺産分割に同意するのではなく、
遺言内容を実現するために遺言の執行を進めるということに
なるのではないでしょうか。

ちなみに
遺言執行者の同意がないにもかかわらず
遺言と異なる遺産分割を強行した場合の法的効果はどのようになるか?
については、見解が分かれています。

遺言と異なる遺産分割に対して、遺言執行者の同意のない場合、
この遺産分割は
遺言執行者によって排除されるものであって「無効」であるとする考え方。

一方、
遺言と異なる遺産分割に対して、遺言執行者の同意のない場合、
遺言の内容に基づいて、
一旦は相続人らが権利を取得することになるけれども
事後的に、相続人らの合意によって
その取得した権利を変動させたと考えることによって
「有効」であるとする考え方。

この2つに分かれています。

見解が分かれている以上、
遺言執行者の同意を得ることなく
「遺言と異なる遺産分割」をするようなことがあれば
遺言執行者から
このような遺産分割を無効だとして裁判を起こされたり
損害賠償を請求される可能性もありますから、
やはり、遺言執行者の同意を得ておく方が良いでしょう。


以上が、
「遺言と異なる遺産分割」する場合の
「法律上の取扱い」と「有効に行うための5つの条件」のお話でした。

今回はここまでにして
残りは次回以降にお話しさせていただきますね。

今回も最後まで読んでいただき、有難うございました。


へいわ法務司法書士事務所
司法書士 山内勇輝

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